LTV(顧客生涯価値)とは?既存顧客を逃さないために知っておきたい3つの要素
新規顧客をいくら獲得しても顧客離れが多ければ売上は増えません。そこで知っておきたいのが「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)」という考え方です。本記事ではLTVとは何かを解説したうえで、LTVを高める3つの要素をご紹介します。
更新日:2023.5.1 公開日:2022.7.5
LTV(Life Time Value)とは「顧客生涯価値」のことで、1人もしくは1社の顧客から生涯に渡って企業が得られる利益を指す言葉です。
昨今、サブスクリプション(継続購入)型のサービスが、BtoC/BtoB関わらず増えてきたことで注目を集めています。それに呼応するようにマーケティングの役割も新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の満足度を高め、解約率低下やリピート購入促進を目指すカスタマーサクセスの領域へと広がっています。
不動産や基幹システムのような高額かつ一度購入すれば買い替えることはしばらくない商品・サービスであれば、新規顧客獲得だけに注力していれば売上は安定するはずです。
一方でHuluやNetflixのような動画配信サービスは、せっかく獲得した新規顧客が数か月で解約してしまえば、LTVは数千円となり安定した利益は生み出せませんよね。BtoBで増えてきたSaaSも同様で、初期コスト・ランニングコストを低く設定している分、利益をあげるには高い継続率が求められます。
「穴の開いたバケツ」に水を注ぎ続けても、水は溜まっていきません。
だからこそ新規顧客獲得を目的としたマーケティングと、既存顧客の満足度向上を意識したマーケティングは分けて考える必要があるのです。
本記事では、LTVについて理解を深めた上で、企業がLTV向上のために行っているマーケティング施策例についても、ご紹介していきます。
LTVがなぜ重要なのか?
改めて「なぜ、LTVが重要なのか?」について解説していきます。
皆さまは「1:5の法則」をご存知でしょうか。
新規顧客を獲得するためには、既存顧客の維持にかかる5倍のコストがかかるという法則で、アメリカの大手コンサルティング会社のディレクターが調査結果から見つけ出しました。
似たような法則に「5:25の法則」があり、こちらは5%の顧客離れを解消することで25%の利益が改善されるというもので、同じ人が提唱しています。
どちらも共通しているのは、既存顧客の維持が重要だということです。
1点誤解してほしくないのは、決して新規顧客の獲得が不要だと言いたいわけではありません。
既存顧客を100%維持し続けることは不可能ですので、穴が完璧にふさがったバケツにはなりえません。LTVがどんなに高くても、新規顧客が獲得できなければ事業は拡大していかないのです。
バケツの穴を最小限に押さえつつ、水を安定供給し続ける、つまり既存顧客維持と新規顧客獲得のバランスを取ることを意識しましょう。
しかし、多くの企業でこのバランスが取れておらず、「新規顧客獲得」に比重がおかれたマーケティング施策になっています。そしてこの新規顧客獲得ばかりを追い求めたマーケティングには、いくつかのリスクが潜んでいる点には注意してください。
再度バケツの例で考えると、バケツに大きめの穴が空いていたとしても流出する水よりも大量の水を注ぎ込むことができればバケツの中の水の量は増えていきますよね。
それであれば、理論上は利益が増えていきそうですが、現実にはそう甘くありません。なぜなら大量の水を安定的に確保しようとすると、同じ量でもどんどんコストが上がっていくからです。
最初は一番近くの井戸から水を汲んでくればよいので工数はそれほどかかりません。しかし井戸の水量にも限度があるため、井戸の水が干からびてしまえば、今よりも遠くの井戸に足を運ぶ必要があります。次の井戸が干からびたらさらに遠くの井戸へ…
そうなると同じ量の水を供給できたとしても、移動時間が今までよりも多くかかるためコストは増大することになります。
これがマーケティングにおいても起こりえます。新規顧客獲得に比重を置きすぎると「リード獲得単価や1件の受注に必要なコストが増加」していくのです。
新規性の高い商品・サービスであれば、最初はコストをかけずとも話題性から多くのリードを獲得でき、受注も効率よく獲得できるかもしれません。
しかしそれは長続きしないため、安定的にリードを確保するために広告を打つ必要が出てきてコストは増大します。さらに自分から商品・サービスが欲しいと問い合わせてくれたリードに比べて、広告で獲得できたリードは温度感がどうしても低くなりがちです。
そのため受注率は低下し、受注までの期間も長くなるため、人的工数も含めたコストは増えてしまうでしょう。
だからこそ新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の維持にも注力する必要があるのです。
LTVを軽視したWEB広告による新規顧客獲得の問題
実際に新規顧客獲得を重視しすぎて問題になっている例をご紹介します。
近年、WEB集客メインのBtoC商材では、LTVに対する意識が欠けたマーケティング施策を見かけます。
自動広告やYouTube広告で流れる、ユーザーのコンプレックスを煽るような広告(例:痩せるための過剰なビフォー・アフター比較など)などが代表例です。こういった広告では、ファーストインプレッションやコンバージョンを重視し、過激なキャッチで新規顧客獲得の購入を促しているように思われます。
もちろん、サービスのクオリティが広告内容を上回っていれば問題はありませんが、もしそうでないのであればLTV低下に繋がってしまいますよね。
こういった話を見ると、「自社とは関係ない話」と思われる方が多いかもしれません。
しかし、集客を広告代理店などに委託している場合、知らぬ間にLTVを損なう集客方法になってしまっている場合もあります。
こういった方法で新規顧客獲得を行っている場合、一時的には新規顧客を大量に獲得できたとしても、既存顧客の早期解約が立て続きLTVは低下し、悪評が広まって新規顧客獲得にも影響が出てくると考えられます。
過剰なまでに新規顧客獲得のみを目的として行われるこれらの問題は、いわば「マーケティングの負の側面」とも考えられ、ネットユーザーからマーケティングが誤解される要因ともなっています。
この例は極端だとしても、LTV向上をないがしろにし、新規顧客獲得ばかりに注力してしまうと、どの会社にもこうなるリスクがあります。マーケティングに関わる方であれば、知っておいて損はない業界全体の課題です。
LTVを高めるために知っておくべき3つの要素
LTVを高めるには、まずLTVの計算式を知っておく必要があります。
LTVの計算式は一般的には「顧客単価 × 購買頻度 × 継続期間」とシンプルに表現され、これは都度購入型の商品に広く適用される計算式です。この計算式の場合、シンプルに「顧客が自社の商品を長い間購入し、購入頻度も高くなればLTVも高くなる」ということになります。
サブスクリプションの場合、チャーン(解約)が発生することがあるので、チャーンレート(解約率)を考慮して「ARPU(ユーザー平均単価)÷ チャーンレート(解約率)」と算出されます。
※ARPU~Average Revenue Per Userの略。一顧客あたりの平均的売り上げを示す指標。「ARPU=売り上げ÷ユーザー数」で算出可能。
サブスクリプションの場合、解約されなければ継続期間が続くことになるため「継続期間=解約されない期間」と捉えることができます。
他にも、LTVに関する計算式は単純化されたものから複雑なものまで数多く存在するため、気になった方は、さらに専門的な計算式も調べてみるとより理解が深まることでしょう。
どの計算式を活用するにしても「単価」「頻度」「期間(または解約防止)」のいずれかを上げていくことでLTVは高まります。
平均購買単価に着目してLTVを高める
初めにご紹介するのが「平均購買単価」を高める方法です。
これは単純な「商品・サービスの値上げをする」という方法が代表的ですが、料金プランの設定や対象顧客の見直しなどの方法もあるので、いくつかご紹介します。
高い購買単価の見込める顧客を対象にする
高い購買単価を見込める顧客を対象としたマーケティングを行う方法です。
BtoBであれば財務体力のある中堅・大手企業、BtoCであれば富裕層をターゲットにします。
クラウド会計ソフトを提供しているfreeeでは、2019年8月にIPO(株式新規公開)の準備をサポートする「IPO事業部」を新設するなど、従来のメイン顧客層だったスモールビジネス以外にも上場を目指す中堅以上の企業に対象顧客を広げています。
これには高い購買単価を得られる層を顧客にしたいという狙いがあると想像できます。
アップセルを行う
アップセルとは、既存顧客に対して今より高額なプランや商品を販売することです。
これは、10万円の商品を使っていたユーザーに対して、買い替え時期に既製品より機能が充実した15万円の商品を購入してもらうといったイメージです。無料のクレジットカードから、年会費有料のゴールドカードに切り替えてもらうことも広義でアップセルに含まれます。
アップセルをしてもらうためには、既存のプラン・商品に満足していることが必要条件です。既存プランに満足できていないのに上位プランにわざわざ切り替える人はいませんよね。
そのため利用促進や定期フォローを行うことで商品・サービスへのロイヤリティを高めることが大切です。
段階式(松竹梅)の料金プランにする
心理学に「極端性の回避」という法則があります。これは「3段階の選択肢がある場合、多くの人は真ん中のものを選ぶ」というものです。別名「松竹梅の法則」とも呼ばれています。
実際に3つのプランをつくって結果を計測すると、「松2:竹5:梅3」の比率で売れる傾向があります。
多くのビジネスが「ベーシック/スタンダード/プレミアム」など3段階の料金プランを用意していることからしても、購買単価を上げるための王道の方法だと言えます。
提供価値の向上に合わせて値上げする
最後にシンプルに値上げする方法のご紹介です。
機能の便利さやサービス品質向上といった顧客が得られる価値の向上に合わせて、購買単価も上げていきます。
2019年に行われたAmazonプライムの年会費上昇(3,900円→4,900円)が好例です。これは、同サービスが日々拡充されて満足しているユーザーが多かったことが、解約率が抑えられた要因ではないかと考えられます。
購買単価を上げる際に「顧客離れを起こさないか?」という不安を抱く企業も多いでしょうが、それに見合った価値が提供できていれば、顧客離れを抑えた単価上昇が見込めます。
平均購買頻度に着目してLTVを高める
次にご紹介するのは「平均購買頻度」を上げるための方法です。
クロスセルによりリピート率を上げる
クロスセルとは、顧客が購入しようとしている商品にプラスして別の商品を提案し、購入を検討してもらう手法です。購買頻度という観点で見た場合には「季節性の商品による」などがクロスセルの代表例でしょう。
大手小売業や飲食店では、お歳暮やお中元といった季節のイベントをきっかけにリピート顧客を獲得するマーケティング戦略が行われています。
普段は必要な商品の購入に立ち寄るだけなのに対し、「クリスマス→ケーキ」「節分→恵方巻き」などのキャンペーンを行うことで、別の商品を購入する動機付けとなり、来店(購買)頻度の上昇が見込めます。
CRM(顧客管理)に力を入れる
平均購買頻度を上げるには、顧客管理(CRM)に力を入れる方法もあります。こまめに顧客へ働きかけ、顧客とのタッチポイント(接点機会)を確保していくのです。
マーケティング関連の研修や講座のサービスを提供している「宣伝会議」では、既存顧客リストから職種・役職別に郵送DMを頻繁に配送することで、研修や講座への参加回数の増加を図っています。
ある広告代理店では単発依頼になりがちな広告出稿の受注頻度を上げるため、クライアント企業とSlack(チャットツール)の共有チャンネルを作成し、常日頃から気軽にコミュニケーションを取れる状態を整備して、依頼頻度を上げることに成功しているという事例もあります。
継続購買期間に着目してLTVを高める
最後に紹介するのは、継続購買期間を延ばす方法についてです。
オンボーディングに力を入れる
オンボーディングとは人事用語で、新しく会社・組織に加わった人材にいち早く職場に慣れてもらうこと、またその取り組みのことを指す言葉です。
マーケティング上では「新規契約後の立ち上げ・運用まで、提供するサービスの価値を実感してもらえるまでの支援」がオンボーディングに当たると考えてもらっていいでしょう。
当たり前ですが、どんなにサービスがよくても、顧客がその価値を感じてもらえないと早期解約につながってしまいます。
SaaS企業が提供するITサービスで起こり得るのが、「導入したはいいものの、使い方が分からず数か月放置されてしまって早期解約」といった状況です。
そこでオンボーディングを行い、導入後の立ち上がりをサポートすることで運用を軌道に載せます。運用が安定化すれば満足してくれる顧客が多いため、継続購買(契約)期間を伸ばすことが可能です。
長い契約期間を選ぶことでお得になるプランを用意する
提供している販売プランの契約期間を長くしてしまうという方法もあります。
求人情報サービス「Wantedly」では6ヵ月/12ヵ月/24ヵ月の料金プランを用意しており、契約期間が長いほど月額料金が割り引かれるようになっています。
似たような料金プランのサービスが、BtoB/BtoCでも数多くリリースされていることからも、単純でありながら効果的な方法だと言えるでしょう。
顧客にとっては契約期間全体で見た時のトータル費用が安くなり、企業にとっては継続購買期間が延びるメリットがあります。
継続して購買の見込める顧客を対象にする
継続して購買の見込める顧客を対象にすることも有効です。
BtoBであれば、中堅・大手企業は取引に十分な検討を要する分、継続率は高い傾向にあります。
米国のベンチャーキャピタリスト、トマス・トゥング(Tomasz Tunguz)氏によると、スモールビジネス(中小企業以下)の月次解約率は 3~7%に達するのに対し、中堅・大手企業の月次解約率は0.5 ~1%程度であるとされています。
BtoCであれば、携帯キャリアはITリテラシーの低い層向けを対象にサービスを拡充させたり、ソーシャルゲームであれば課金率の高いユーザー向けの魅力的な特典を付与したりするなど、自社サービスにとって継続購買見込みの高い優良顧客を見極めることが重要です。
顧客の業務に深く入り込む
顧客にとって「なくてはならない存在」になることも重要です。
大規模サイトの運営代行やデジタル人材の派遣を行う「メンバーズ」では、大手企業向けにデジタルマーケティングの専任チームを組んでおり、「Webサイトの運営を一括して相談・依頼できる」というベネフィトを提供しています。
クライアントから信頼を勝ち取り深い業務に入り込むことができれば、根強いリピーターとなることに期待できます。
その他にも、クラウド上に重要なデータを蓄積していくタイプのサービスの場合、解約や移行にかかるコストとリスクが膨大になることから、これも「なくてはならない存在」となりやすいです。
経理・会計関連のクラウドサービスである「マネー・フォワード・クラウド」「freee」などが代表例ですね。2023年に旧ツールの完全終了がアナウンスされたGoogle Analyticsでは、WEB解析に携わる者から悲鳴の声が上がっているほどです。
このように、顧客になくてはならない存在と満足してもらえるサービスとなれば、その利便性から離れられない存在となり、購買期間は長くなります。
まとめ:新規顧客獲得/LTV向上を分けて考えより多くの利益を生み出そう
今回の記事では「新規顧客獲得」「LTV向上」とマーケティングには2つの目的があることをご紹介しました。
新規顧客獲得を重視しすぎると顧客離れを防ぐための施策が軽視され、逆にLTV向上のみを重視しても新規顧客が獲得できずに事業が伸び悩むという問題を抱えることになります。
だからこそ、新規顧客獲得とLTV向上のバランスが大事なのです。
一定以上の規模の企業では新規顧客獲得とLTV向上を担う部署が分かれており、LTVに関する取り組みは「カスタマーサクセス」が担当していることがほとんどです。
カスタマーサクセスの部署があるのであれば、マーケターがすべての役割を担う必要はありません。既存顧客と接するカスタマーサクセス担当者の意見を聞くなどしてみて、新規顧客獲得を目標とするマーケティング施策に活かせることがないか、接点を持ってみるといいでしょう。カスタマーサクセス寄りの立場のマーケターであれば、逆もまた然りです。
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ピクルス / マーケターのバディ
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