香りをマーケティングに応用?ブランド価値を高める実践事例を紹介
香りには感性を刺激しブランド価値を高める効果が期待できます。しかし、実体のない香りの効果については理解されていない部分が多いのも事実です。本記事では香りの特性と効果、活用事例など、香りマーケティングについて説明します。
公開日:2022.9.13
街で通りかかったうなぎ屋さんの店先から出てくる香ばしい煙の匂い。思わず食欲を誘われたという経験をした人はこの記事の読者にもいると思います。
あのかぐわしい煙の威力は昔から知られていて、ショーウィンドー越し調理場を見せる視覚的効果と合わせて、意図的に煙が店先に向かうようにしているお店も多いそうです。
この記事のテーマは「香り」です。
食品や化粧品などであれば香りのイメージはつきやすいかもしれません。実は、香りが及ぼす効果は大きく、幅広い商品やサービスのマーケティングに活用できる可能性があります。
この記事では香りを活用したブランド価値向上の意義と方法について解説します。
香りについて具体的な話に入る前にブランディングにおける「顧客価値」について確認しておきしょう。
2つに分類される顧客価値
商品・サービスには、機能的価値と情緒的価値の2つの顧客価値があるとされています。
機能的価値とは、商品やサービスから顧客が得ることを期待する基本的な価値のことです。例えば、Tシャツであれば着ているときの快適さや耐久性などです。
情緒的価値とは、その商品・サービスを利用することで顧客が感情的に得られる満足感のことです。ブランド物のTシャツは機能的価値もありますが、着ることによる高揚感や満足感といった情緒的価値を期待しています。例えば、ユニクロのような量販店の何倍もするような価格であっても、情緒的価値を顧客が評価することで購入へとつながります。
市場に商品があふれ機能的価値だけでは売れなくなった現代では、いかに情緒的価値を高めるかは非常に重要です。
情緒的価値を高める方法
情緒的価値を高める方法には、以下の2つがあります。
感情に訴える方法の1つがブランドストーリーです。ブランドストーリーとは、そのブランドにまつわる歴史や社会との関わりが物語となっているものです。顧客はその物語に共感し、感動することでファンとなってくれます。
ブランドストーリーについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
五感に働きかけて感性を刺激する
情緒的価値を高めるもう一つの方法である感性を刺激するには、五感に働きかける必要があります。
五感とは人間の5つの感覚(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)のことを言います。五感の中でも非常に多くの情報を集めているのは視覚です。人は85%以上の情報を視覚から集めていると言われており、「色」は視覚を直接的に刺激します。
カラーブランディングについてはこちらの記事をご参照ください。
五感における嗅覚、すなわち鼻で感じる香り、匂いも感性を刺激する要素となります。
後ほど説明しますように、マーケティングに香りを活用しているブランドも多く存在します。欧米では香りを商標として登録することが可能です。日本酒製造の菊正宗酒造はアメリカで日本酒の香りを商標登録申請しています。
とはいえ香りの価値についてはそれほど認識が高くないというのも事実でしょう。
その一番大きな理由は、実体をともなったものではないからだと言われています。WEBや広告などでいくら香りのよさをアピールしても実際にその場にいないと経験することはできません。
しかし、私たちは無意識の内にさまざまな場面で香りの影響を受けています。実は、五感の中でも嗅覚は脳の中心へ直接的に作用する効果が一番あるそうです。
では、最初に香りとは何かについて説明します。
香りの特性を知る
人間が本能として香りに反応していることを示すものがフェロモンです。
犬の嗅覚が人間より優れているのはよく知られていますが、実際に犬の嗅覚力は人間の3,000倍から10,000倍あるそうです。嗅覚によって動物は、繁殖の方法を見つけ、危険を察知し、獲物を見つけるという本能的な行動をとることができます。
香りへの感覚は、人間が本能として備えているものであると言えます。
一方で、香りに対する連想は、経験学習によって得られるとする考え方もあります。乳幼児は、尿や排斥物の匂いに対して嫌悪感を持つことはありません。生活体験を通して香り、匂いに対しての知覚が形成されていくのです。
文化や世代の違いによっても香りに対する反応は異なります。
「新車の匂い」に対する感じ方には国や文化によって好き、嫌いがはっきり分かれます。匂いの元は製造時に使われる油や塗料、接着剤などの化学品ですが、アメリカ人には高級感を感じることができるということで好まれる傾向にあるそうです。一方で、中国では嫌われる傾向にあるため、販売時には茶葉などで匂いを消しています。
もちろん、個人差がありますので一概に同じ文化圏の人が好きか嫌いかを分類することはできないですが、香りをマーケティングに応用する際にはその国の文化的な背景には気を付けておくべきでしょう。
嗅覚の順応性には要注意
嗅覚について注意しておくべきことがあります。順応性についてです。人間は同じ匂いの空間にいると徐々にその匂いに慣れてしまい気づかなくなる傾向があります。
香水をつけたことがある方なら経験されたことがあるかもしれませんが、最初につけたときは良い香りを自分自身で感じることができます。しかし、しばらくするとわからなくなり、消失したように感じることがあります。実は、嗅覚が順応してしまっていて本人には感じなくなっているのです。
また、きつい香りは逆に相手に不快感を与えてしまいかねません。順応してしまった感覚で香りの強度を決めてしまうと、強い香りになってしまいます。
適正な強度の香りについては順応していない感覚での判断が必要となってきます。
ここまでは、香りの特性について説明しました。
次に香りから記憶を呼び起こす「プルースト効果」とその応用について説明します。
プルースト効果とは
特定の香りを嗅ぐことによって、その時の記憶や感情がよみがえることを「プルースト効果」といいます。
フランスの小説家のプルーストが書いた「失われた時を求めて」は、主人公が紅茶にマドレーヌを浸した時に呼び起こされた記憶について書かれた小説です。
「プルースト効果」は、香りと記憶の強い結びつきを示すものです。香りとともに埋め込まれた記憶を呼び起こすと、写真やビデオなどの視覚、聴覚よりも深く鮮明なものとなって再生されるという研究報告があります。
嗅覚は五感の中で、唯一、脳の中でも感情をつかさどる大脳辺縁系と直接つながっているので、より情動と関連付けやすいからとされています。
プルースト効果のマーケティングへの応用例
プルースト効果を理解することで、香りをマーケティングへ活用することの意義がご理解いただけると思います。
たとえば、リゾートホテルのラウンジでの心地の良い香りの思い出があったとしましょう。何年かたって、そのホテルからDMが届きました。封を開けてみると、懐かしい香りがします。旅の良い思い出が呼び起こされて、また行きたいという願望を持つきっかけとなることが期待できるでしょう。
リゾートや高級ホテルでは積極的に香りをマーケティングに活用しています。その場における清涼感、おもてなし、非日常感をメッセージとして伝えるとともに、ホテルでの体験が香りとともに記憶されることを期待しているのです。
ここまで香りの特徴やマーケティングに活用する意義を説明しました。では、次に企業の香りマーケティングへの活用事例をご紹介します。
香りマーケティング実践事例
トヨタの高級車ブランドのレクサスのショールームでは、四季に応じたフレグランスを活用しています。ブランドイメージに合うものを厳選して、香りがいきわたるためのディフューザーの配置場所も綿密に検討しているそうです。高級感やお客様へのおもてなしの姿勢を香りによって体現しています。
アパレル・ファッション業界では、香りを早くからブランド要素に取り入れています。
アバクロの通称で知られるアメリカ発のブランド「アバクロンビー&フィッチ」は店舗に香りを取り入れています。ブランドのイメージにあった香水を開発し店舗にも活用することで、初期には30%近い売上増につながったそうです。
当初は、ブランドのイメージに合わせたセクシーな香りだったのですが、ブランドコンセプトをユニセックスへと変更する中で、香りもイメージに合ったものに修正を加えています。
上記のように、ホテルやアパレル店舗のビジネスでは香りの活用はイメージがわきやすいと思います。一方で、B2Bやネット販売の企業ではどうなっているのでしょうか。
B2Bやネットショップでも香りの活用は可能
オフィスに香りを導入している企業は多くあります。商談室やトイレにフレグランスを導入することで来客者への良い気持ちになってもらうことと同時に、従業員のモチベーション向上にもつながっているという事例もあります。
また、香り付きの名刺といった商品もあり第一印象を良くする、お客様に香りとともに名前を憶えてもらうといった狙いがあります。
ネット販売でも香り付きの段ボールや緩衝材といった商品を使用している企業もあります。ただし、商品に香りが移ってしまう等のクレームのリスクもありますので、扱っている商品と合わせて慎重に検討するべきでしょう。
香りマーケティングのはじめ方
いざ、香りを自社のブランドに活用しようと思ってもどんな香りを使っていいのか迷う人がいるかもしれません。
そんなときは、香りマーケティングを専門とした業者に相談するのも一つの手段です。
まずは自社で一度始めてみたいという場合は、例えば、アロマテラピーの情報などを確認しながらブランドイメージに合わせて、そして、チームのメンバーが好きだと思う香りを選んでみるのが良いでしょう。
まとめ
ブランディングにおける情緒的機能を高める上での香りの重要性、そして、香りの特性、特に香りと記憶との強い結びつきを示す「プルースト効果」とブランドの活用事例について説明しました。
自社のブランド力強化に香りは大きな可能性を持っています。
これまであまり気にしてこなかったマーケターの方はぜひ、自社ブランドのイメージにあう香りとは何か考えてみることからはじめてください。
ピクルス / マーケターのバディ
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