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ブログ「明日のマーケティングは、今日の発見から。」

セレンディピティのマーケティング活用法|不便益を駆使して新しい体験を生み出す

セレンディピティのマーケティング活用法|不便益を駆使して新しい体験を生み出す

セレンディピティとは、自らの積極的な姿勢や判断によってもたらされた思いがけない幸運のことをいいます。この記事では顧客のセレンディピティを促すための手法「不便益」について、そして、マーケティングへの活用方法について解説します。

自分の運命を決めるのは自分自身です。計画通りにやりたいこと・達成したいことに向かって努力することが成功への道筋である、と信じている人は人生を前向きに捉えて成功を収める人です。

しかし、一方で運が人生を大きく変えることがあります。幸運に恵まれている人、そうでない人の違いは何なのでしょうか?

この記事のテーマは、幸運を引き起こすキーワード「セレンディピティ」についてです。

「あれ?マーケティングの記事じゃないのか!」と疑問に思われるかもしれませんが、実はマーケティングにも応用ができる概念なのです。この記事ではセレンディピティをどのようにマーケティング施策に応用できるかを解説します。

セレンディピティとは

セレンディピティとは

セレンディピティとは、「予想外の事態での積極的な判断がもたらした、思いがけない幸運な結果」という意味です。

目標にむかって努力を続ける中で、ある時、ちょっとした偶然が重なって大きな発見をすることがあります。たとえば、ポスト・イットは強力な接着剤を開発しようとして四苦八苦していた技術者の失敗作から生まれました。今ではご存知の通り世界中で販売される大ヒット商品です。

こういった予想外の幸運はどうすればつかむことができるのでしょうか?予想外の出会いや発見をする人は、ツイてるだけなのでしょうか?

人生のなかで重要な出会いや転機を迎えて成功をつかむ人がいます。いわゆる「持っている人」は、運だけで成功をつかんだわけではありません。

前述のポストイットの開発者も数多くの研究への努力の積み重ねがあったからこそ、このような画期的な製品を世に送り出すことができたのです。セレンディピティとは、人の熱意や志と偶然の出会いが相互作用することによって生み出される結果のことを指します。

まだ、セレンディピティとマーケティングとのつながりが見えてこないと思います。そこで、セレンディピティーをマーケティングに活用した事例として格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーションが企画した「旅くじ」をご紹介します。

セレンディピティのマーケティング活用事例「旅くじ」

旅くじ

旅くじ」とは、シンプルに言うと航空券のガチャガチャのことです。1回5,000円で行き先が分からない航空券を買えるポイントがもらえます。くじが1回5,000円に対して、6,000円もしくは10,000円分のポイントを得られますが、開けてみるまで使える行き先はわかりません。

その上、空港利用料、手荷物代などの諸費用もかかり金銭的なお得感はそれほどないため、購入する人が金銭的なメリットをあまり求めていないと推察されます。しかし、この商品は発売開始以来非常に好評で、発売日には若者を中心に行列ができるそうです。

なぜ、この商品がこれほどのヒット商品になったのかを考察すると、この記事のテーマであるセレンディピティが浮かんできます。

「旅くじ」のヒットの背景には、コロナ禍による抑制とWEBマーケティングの功罪の2つがあります。

コロナによって、私たちの行動は制限され、新たな出会いや発見の機会が著しく減少しました。抑制された思いからどこか行ったことがないところへ行ってワクワクした気持ちになりたい、新たな出会いを見つけたいという渇望が生まれました。

次に、WEBマーケティングについてです。商品・サービスの購入の際には、ネットで口コミや人気ランキング情報を収集して選択することが一般的になっています。また、購入記録やWeb上の訪問記録などの情報を企業側が得ることで、その顧客が欲しいと思うだろう商品を推奨する機能も広まっています。

顧客目線では、自分にとって失敗のない購入ができるので便利になったといえるでしょう。一方で、それはあくまで過去の経験や他人の評価に基づいたものです。そのため、購入体験は想定の範囲内に留まります。

消費者の隠れたニーズとして、自身が想いもしていなかったような経験を経て、自分だけが感じる価値を得たいという思いもあるはずです。

そんなワクワクするような新たな出会いと発見が生み出すものがセレンディピティです。

このように、セレンディピティを生み出す仕組みをマーケティング施策の中に組み入れることは有効です。では次に、セレンディピティにはどういったタイプがあるのかをご説明します。

セレンディピティの3つのタイプ

「セレンディピティ 点をつなぐ力(クリスチャン・ブッシュ著)」によると、主に3つの類型があるとされています。
順にご説明します。

1. アルキメデス型

解決したい問題への予想外の解決方法の発見のことです。

古代ギリシャ時代にアルキメデスがお風呂に入っているときにあふれ出る水の量から金と銀の重さの違いを利用して純金製かどうかを見極める方法を思いついたところからきています。

このタイプは、日常生活や企業でもよくあることで、解決法がなかなか見つからない問題に対して、ちょっと視点やアプローチを変えてみることで方策が見つかることがあります。

アルキメデス型

2. ポスト・イット型

別の問題に対して予想外の解決法が見つかることがあります。

前述の通り、ポスト・イットは強力な接着剤を開発しようとしていた際の失敗作が、付箋として応用され大ヒット商品となりました。

単なる偶然ではなくて様々な試行錯誤の結果、画期的な商品が生み出されることがあります。徒労に終わってしまいそうなときでも無駄と思わずにやってみると思わぬ発見が期待できるかもしれません。

ポスト・イット型

3. サンダーボルト型

空からいきなりやってくる稲妻(サンダーボルト)のように、まったく予想もしていないタイミングで新たな機会や解決策がやってくることです。

実は、こういった予想もしないタイミングでアイデアや方法が思い浮かぶことがあります。それは、非日常の中でやってくることが多いでしょう。美術館で知らない画家の絵を見たり、座禅を組んで瞑想しているようなこともセレンディピティの機会となります。

サンダーボルト型

セレンディピティの3つのタイプについてご説明しました。では、マーケティング施策の中でどのようにセレンディピティをプロデュースすればいいのでしょうか?そのヒントとなるのが「不便益」です。

不便益とは

「不便益」とは、その言葉の通り不便によってもたらされる益という意味です。

京都先端化学大学の川上浩志教授を中心としたグループによって20年以上に研究されてきた概念で、不便であるから得られる効用のことを言います。日常の生活の中で便利であるからこそ、気づかないこと見逃してしまうようなことはたくさんあります。

例えば、前述のネットショッピングです。買いたいものを検索すれば簡単に人気商品から順番にリストが出てきます。非常に便利ですし、過去の購買履歴の情報も参考に推奨されることもあるので、買い物で失敗することも少なくなります。では、その便利さがなくなったときのことをもう少し考えてみましょう。

ある時、ネットで本を買おうとしましたが、何らかの事情で買えなくなったとします。やはり不便だと感じるでしょう。

ところが、本屋に立ち寄って目当ての本を探していると、ちょっと気になる別テーマの本が目につきました。手に取ってみると中身も面白そうで、購入して帰って読んでみると、新たな興味が沸き起こって、新しいアイデアの源になりました。

不便益の例

これは仮定の話ですが、実際にいろいろな場面でおきることです。このような経験が、不便によってもたらされた益であるということです。

川上教授は、株式会社博報堂と協力して「不便益」のマーケティング活動への研究に取り組んできました。その研究の結果として、益の出やすい不便とそれによって得られる益を7つに類型化しました。

7つの不便と7つの益

7つの不便と7つの益をまとめたものが以下の図表となります。

7つの不便
7つの益

引用元:https://www.hakuhodo.co.jp/magazine/86580/

商品・サービスを提供する企業にとっては、顧客に利便性を提供することによってより高い対価を獲得できると考えます。顧客が少しでも簡単に利用することで満足度を高めて、リピート購入や口コミによる顧客増を期待するでしょう。

一方で、上記の7つの不便は、従来の考え方を覆し、商品・サービスのコンセプトとして必須であったものをあえて省略してみよう、ということです。

たとえば、前述したピーチ・アビエーションの旅くじの場合では、航空券において必須であるはずの行き先という情報が省略されています。

その結果、購入した顧客は自分では考えることもしなかったような行き先の航空券を手にすることができるかもしれません。くじを引くことで、新たな興味を持ち(やる気がわく)、ワクワクする(楽しい)という益を得ることができます。

かといって、すべての便益を省略してもいいわけではありません。

お蕎麦を例に考えてみましょう。蕎麦は、外食、もしくは、茹でるだけの麺を買ってきて家で食べる人が大半です。蕎麦好きな人の中には、そば打ち体験に行って、自宅でそば打ちする人もいるでしょう。

不便益の考えでは、蕎麦を食べるために、そば打ちから始めましょうと言っているわけでははないのです。ほんの少しだけ手間をかけられる隙(たとえば、蕎麦を好みの太さに切る、つゆ作りにアレンジが加えられるなど)を与えてあげるのです。

このように、7つの不便のどれかを取り入れて、7つの益のどれを期待できるのかを検討し、商品・サービスを再設計し、新たな顧客体験を生み出すのです。

7つの益の先にあるものは何でしょうか?もちろん、それは、セレンディピティです。

顧客に前向きに不便を提供してあげることで、顧客が新たな出会い、気づきを得ることで思いがけない幸運に出会う体験に導いてあげるのです。

まとめ

この記事では、セレンディピティとは何か、そして、マーケティング施策の中でセレンディピティを演出するための方法として「不便益」についてご説明しました。

イノベーションを求められるマーケターにとって、セレンディピティは非常に重要な考え方となります。

ご自身にも偶然な幸運を引き起こすための前向きな姿勢を持ちつつ、顧客もそのような幸運を見つけてもらえるように「不便益」を取り入れることを検討してみましょう。