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ブログ「明日のマーケティングは、今日の発見から。」

マーケティングに役立つ「デザイン思考」を実践するための5ステップとは

マーケティングに役立つ「デザイン思考」を実践するための5ステップとは

「キッコーマンの醤油瓶のカタチは?」と聞かれて頭に思い浮かびますか?

赤いキャップと流線形の瓶をすぐに思い浮かべるのは日本人の常識と言っても言い過ぎではないでしょう。

最近は空気に触れない密封ボトルなんかも出ていて馴染みがなくなってきたという人もいるかもしれませんが、長い間、日本の食卓の定番アイテムでした。

あのデザインのキッコーマン醤油が発売されたのは1963年で、考案したのは工業デザイナーの榮久庵 憲司氏です。

それ以前は、醤油瓶といえば丸い筒形だけでした。使っていると液ダレがおきて食卓のテーブルクロスにシミがつくなど見た目も悪く、乾いた醤油がこびりついて衛生面もよくありませんでした。

美しい流線形の形はそのような問題を解決するために考え尽くされたデザインなのです。

なぜいきなりこんな話から始めたのかというと、本記事でご紹介したい内容が「マーケターが持つべきデザイン思考」だからです。

デザイン思考とは、「デザイナーの感性と手法を用いて顧客価値と市場価値の創出を図る創造的な問題解決のプロセス」と定義されています。

デザイン思考のコンセプトを理解するのにキッコーマン醤油瓶は良い例です。

現在、デザイン思考はデザインの領域を超えてさまざまな分野で活用されており、消費者理解を常に求められるマーケターにとっても非常に重要なコンセプトであるため、ぜひこれを機に理解を深めていただければと思います。

デザイン思考が注目される背景

デザイン思考という考え方に注目が集まるようになったのは、アメリカのデザイン・ファームのIDEOがきっかけです。

前述の通り、キッコーマンの醤油瓶が発売される前は、液だれ、クロスへのシミといった課題がありましたが、その当時の消費者にとって、それは「あたりまえ」「しょうがない」こととして受け入れられていました。

このように消費者が受け入れて意識もしなくなったような不都合を浮かび上がらせ、そのための解決法を見つけ実現させるプロセスがデザイン思考です。

アート思考との違い

アート思考とデザイン思考はよく混同されがちですが明白な違いがあります。

アート思考とは、問題提起のプロセスです。
ピカソの「ゲルニカ」を例として取り上げましょう。

ピカソは誰もが知っているスペイン出身の画家で、数多くの名作を生み出していますが「ゲルニカ」もその中の一つです。

この絵はドイツ空軍の無差別爆撃によってスペインの町が破壊されたことに衝撃を受けたピカソが、パリ万博に展示する壁画として制作した絵画です。

その絵に登場する牛や馬、人の姿からは爆撃の悲惨さや恐怖が伝わってきます。この絵にはピカソの戦争や殺戮への感情や問題提起の想いが込められています。

アーティストは自分の想いを独創的な感性で表現することで、見た人や聞いた人の感情を揺さぶります。

アート思考は、独創的な観点で問題提起することによって、受け手の感情を刺激し行動を喚起するための思考プロセスということです。

このように、アート思考は問題提起のプロセスであるのに対して、デザイン思考は問題解決であるという違いがあります。

デザイン思考のプロセス

デザイン思考の一般的なプロセスとしてスタンフォード大学d-schoolが紹介している、5つのステップをご紹介します。

デザイン思考5つのステップ

それぞれ詳しく見ていきます。

1. 共感

後ほど詳しく説明しますが、この最初の「共感」のプロセスがマーケターにとって最も重要なプロセスです。

人間や社会の行動をじっくりと観察し、同じ目線でモノを見て経験することで新しい発見と解釈(インサイト)を発見します。

2. 定義

共感から得られたインサイトを元に問題を定義します。

顧客が何に困っているのか解決すべき課題を明確にします。

3. 発想

定義された問題について解決方法のアイデア創出を行います。

このプロセスでは、個人での作業よりもチームによる共創型で、ブレインストーミングによるアイデア出しができるとより高い効果を上げることができます。

4. プロトタイプ

実際に手を動かして、視覚化して、形にするプロセスです。

簡易的に作ったものでも実際に見ることで新たな創造性を付加することが期待できます。

モノだけでなくビジネスモデルなどでも、ブロックなどを使って可視化することで破綻がないのかを見つけることができます。

5. テスト

実際に作ったプロトタイプを使ってもらうのがテストです。

製作者の視点でなくユーザーからの視点が加わることで、改善点を見つけ、時には着眼点そのものを見直します。

そして、さらに重要なこととして、消費者理解をさらに深めることができます。

以上、5つがデザイン思考の基本的なステップとなります。

「共感」がマーケターにとって重要なワケ

それぞれのステップが重要であることはもちろんですが、マーケターにとって、そして、デザイン思考のプロセス全体にとって最も重要なステップは、最初の「共感」です。

なぜなら、「共感」が意味している「顧客の心の動きを捉えて理解しインサイトを見つけること」は、マーケターが常に求められるスキルだからです。

では、どうすれば、顧客に共感することができるでしょうか?

共感するためには、「観察」し「聞くこと」が重要とされています。

顧客がなぜ、どのようなことをきっかけとして商品に興味を持ち、購入するのか。また、逆になぜ購入しようと思わないのかを観察するのです。

次に、実際に商品を選択した理由を顧客に聞いてみます。

グループインタビューなどを実施すれば、直接顧客に質問することも可能ですが、一定の費用がかかります。

大きな費用をかけなくても、現場に出向き、その場で実際に話を聞いてみるだけでも、新たな気づきが得られるかもしれません。

後にも説明しますが、目の前にいる顧客の声に耳を傾けることは重要です。

もう一つ、最も主体的に顧客に共感する手段があります。
それは、自分自身が顧客になることです。

実際にターゲット顧客の目線に立って、彼らと同じ行動パターンで自社の商品を実際に体験してみるのです。

BtoBビジネスにおいても、自社の直接の販売先顧客だけでなく、その先の消費者にまで目を向けて、実際に自分自身が消費者として体験してみましょう。

そうすることで、なぜ自社の商品やサービスが利用されるのか、利用されるべきなのか、を考える機会となり新たな価値提案の発見につながります。

エーザイの共感への取り組み

顧客への共感への取り組みの事例として、製薬会社のエーザイをご紹介します。

ご存知の通り、エーザイは日本の大手製薬会社です。最近ではアルツハイマー病の新薬が米国で承認され話題となりました。

エーザイは企業理念としてヒューマン・ヘルスケア・カンパニー(hhc)を掲げ、医師や病院だけでなく患者やその家族をヘルスケア活動の中心に据える姿勢を打ち出していることで有名です。

hhc活動と称して、全世界の社員に対して就業時間の1%を患者さんと共に過ごすことを奨励しています。

実際に、養護老人ホームで高齢者疑似体験を行って患者さんの喜怒哀楽を理解して日々の業務に活かし、イノベーションの実現に取り組んでいるという話もあります。

hhc活動を通して、社員は患者さんや病気のことを理解することで、自社の存在意義や治療薬開発の熱い想いを全社で共有するという効果もあるようです。

患者さんの喜怒哀楽に共感し、それが「自分たちができることは何か?」を自問する機会となり、インサイトの発見とイノベーティブな価値の創出につながっているのです。

インサイトがイノベーションの原動力

インサイトとは、消費者インタビューで質問をしても出てこない隠れたニーズのことです。

消費者は日常生活の中で使い慣れたものに対して「これはこういうものだ」と受け入れていて、「もっとこうなっていたら便利なのに」とか「本当はこれが欲しい!」という願望を意識の外に追いやっています。

また、本当に求めているものとは違うものを無意識に欲しいと答えてしまいます。

有名な事例はマクドナルドの「サラダマック」です。

アンケートで「マクドナルドでどんな商品がほしいですか?」と聞くと、「ヘルシー」や「オーガニック」という回答が非常に多いという結果が出ました。

分析結果から「売れる」と判断して野菜をたっぷり使用したサラダマックを販売したところ、全く売れず大失敗となりました。

その後に発売したハンバーグを増量した「クォーターパウンダー」や「メガマック」は、逆に大ヒットになりました。

消費者は、アンケートで意識的にウソをついたわけではありません。

自分のことを正しく表現できないのが消費者なのです。

マクドナルドで健康的なハンバーガーを食べたいと思っているのは事実です。

しかし、隠れた心理としてマクドナルドでは罪悪感を感じるくらい肉がたっぷりのハンバーガーを注文したいと思っているのです。

このように、消費者自身が普段意識していない無意識の領域にある隠れた心理に焦点を当てるのがインサイトの考えです。

インサイトを見つけるためには、消費者に話を聞くだけではなく、消費者の行動を観察し、心の動きを捉えて「共感」する必要があるのです。

アウトライヤー(極端な消費者)に焦点を当てる

また、これまでの市場調査の常識も見直す必要があります。

市場調査を行うと、通常の分析では回答数が多かったところに正解があると考えます。

統計学の正規分布の山が一番高いところに焦点を当てて、極端な回答(正規分布でいうと山の両端の5%)は、アウトライヤー(外れ値)として分析から削除します。

デザイン思考においては、このアウトライヤーに焦点をあてます。

なぜ彼らはこれほど熱狂的に支持するのか?多くのお金を使うのか?
または、なぜこれほどまでに嫌うのか?

極端な消費者に注目して彼らの共通点を見つけることでインサイトへとつながります。

そして、それは平均的なユーザーの行動に対しての洞察ともつながっているのです。

まとめ

デザイン思考のコンセプトとその原動力となる消費者への共感について、マーケターの役割についてご説明しました。

共感から得られたインサイトは、マーケティング戦略の見直しに有効であるだけでなく、自社の製品開発部門やデザイン部門にインプットすることで消費者ニーズに沿った製品を生み出すことも可能となるでしょう。

デザイン思考を身につけて市場にイノベーションを巻き起こしましょう。