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ブログ「明日のマーケティングは、今日の発見から。」

マーケティングにおけるROIとは|成果を可視化し経営層に納得感のある提案を

マーケティングにおけるROIとは|成果を可視化し経営層に納得感のある提案を

マーケティング活動の成果を数字で評価することは、活動の意義を社内で共有することや、改善点を見つけるためにも重要です。この記事では、マーケティング活動を定量的に評価する上で有効な指標であるROIの算出についてご説明いたします。

とある居酒屋でのベテラン営業マンAとBの会話
A:「うちのマーケ部門の人たちって、ぜんぜん、売上に貢献するようなことしてくれないよなぁ‥」
B:「それなのに、俺らがいつもお客様と商談で汗水たらしている時に、会社で楽しそうに机にすわっているよなぁ」

これは“会社の愚痴トークあるある”としてよく見かける光景です。
同じマーケターとしては「待て待て、こっちも…」と反論したくなる気持ちも非常に分かりますが、冷静に彼らが愚痴をこぼす理由を考えてみましょう。

その理由の1つとして、マーケティング部門の活動の成果が社内で正しく認識されていないからかもしれません。

この記事では、マーケティング活動の成果をROIで評価することの意義とその数値化モデルの作り方について説明します。

ROIとは

ROIは、Return on Investment の略で、投資収益率のことです。投資に対して、どれだけの利益をもたらしたのかを表します。経営上では、投資の意思決定の指標とされることが多いです。

計算式で表すと、
ROI(%)=利益/投資×100
となります。

それぞれのマーケティング施策のROIを算出することで、各施策の有効性を比較することができ、改善点を見つけ出すことも可能です。さらに、経営陣にマーケティング活動への理解と承認を得る上でも有用な指標となります。

もう少しマーケティング活動をROIで評価することの意義を営業活動との比較で考えてみましょう。

営業活動における目標は何か?と聞かれたら、まず、売上・受注という答えが出てくるでしょう。営業部門は売上目標というノルマの達成に向けて日々活動しています。

もちろん、売上の向上は営業部門だけの目標ではありません。
マーケティングもベクトルは同じ方向を向いています。

しかし、営業部門との違いは、マーケティングは短期的な売上目標だけでなく、中長期的な視野に立つ必要があるということです。そのため、収益向上の効果は短期だけではなく、長いスパンで見ていく必要があります。

ここでのポイントはその目標設定について経営層としっかり合意が取れているかです。

経営層の立場としては、投資家や銀行、株主の目を考えればどうしても短期的な成果も重要視せざるを得ません。だからこそマーケターは経営層と密にコミュニケーションを取り、それぞれの施策がどんな狙い・目標を持ち、どれくらいのスパンを想定して達成する見込みかをすり合わせることが大切です。

例えば、自社のオウンドメディアへのアクセス数が増えた、と報告をしても、合意が取れていなければ、経営者から「それがどう会社の売上に貢献したの?」と疑問を持たれかねません。

たしかに、マーケティング活動が収益にもたらす効果を数値化するのは簡単ではないでしょう。だからと言って、そのままにしておけば売上が下がった際にコスト削減の対象とされることすらあります。

そうならないよう経営者の納得がいくように活動の投資対効果を示したものがマーケティングにおけるROIなのです。

マーケティングにおけるROIの算出方法

ROIを活動の成果指標とするためには、事前に入念なロジックを構築する必要があります。

前述の通り短期においては単年の受注・売上を指標とすることができますがマーケティングの成果は長期に渡りますので、仮説に基づいた計算モデルを作り、事前に合意を取っておく必要があるからです。

まず、ROIの計算式の内訳となる投資とリターン(利益)の中身をご説明します。

マーケティング活動における投資の算出

マーケティング活動における投資には、主に以下のものがあります。

マーケティング活動の投資

プロモーション費、制作費については施策ごとで分けられている場合はそのままでいいですが、いくつかの施策を合算している場合は稼働時間等の任意の基準で費用を振り分けます。

人件費については、各人員が年間の総稼働時間のうち何%をその施策の計画・実行に費やしているのかを、ざっくりとした比率で計算するので十分です。各個人の給料を細かく計算するような必要はありません。

その他の活動費も同様です。ざっくりでも根拠さえしっかりしていれば問題ありません。

マーケティングのリターンの指標:LTV(顧客生涯価値)

次に、リターン(利益)についてです。マーケティング活動の目的は、新規顧客を獲得しリピート顧客へと導くことです。

新規顧客を1人(1社)獲得することによってもたらす価値がいくらになるのかが分かれば、リターンを算出できます。その顧客1人の価値を定量化したものがLTVです。

LTVは、Life-Time Valueの略で、顧客生涯価値という意味です。1人の顧客が、初めてその商品・サービスを購入して利用を中止するまでどのくらいのキャッシュをもたらすのかを表した数字です。

LTVの一般的な計算式は以下のとおりです。

LTV=1回あたり購入金額×年間購買回数×継続年数

例えば、1回の購入平均額が3千円として、月1回購入で平均して10年間は継続して購入する場合は
LTV=3千円×12回×10年間=36万円
となり、一人当たりの新規顧客獲得の価値は、36万円ということになります。

最近増えているサブスクリプション(継続課金)ビジネスの場合、継続年数は非常に重要かつわかりやすい指標となります。

一方で中止のタイミングを設定するのが難しいビジネスもあります。例えば、スーパーマーケットなどの小売店では利用中止のタイミングは明確ではありません。過去の実績や顧客の年齢層などから予測数値を設定します。

その他にも1点注意しなくてはならない点があります。
LTVの計算式には現在価値の観点を加味していません。

現在価値とは、現在の100万円と10年後に手にする100万円では同じではないということが前提です。利子率を加味すると現在の100万円の方が未来の100万円より価値が高いので、未来の100万円を割引現在価値として評価するというものです。

こうした背景からLTVについても将来価値を割引く必要があるのではないか、という指摘を経理・財務担当者などから受けるかもしれません。

この指摘はプロジェクト投資の意思決定としては正しいです。ただし、マーケティングROIにおいては不要と考えてよいでしょう。マーケティングROIの目的は、活動の成果を確認し、改善策の検討のために行うものだからです。

計算式は目的に合わせてできる限りシンプルにした方が活用しやすくなります。この点を前提条件として明らかにしておけば、社内での理解を得られるはずです。

ROIの内訳の例を挙げましたが、会社によって投資やリターンの考え方を独自で設定しているケースがあります。その場合は、会社の設定方法をできるだけ取り入れマーケティングとして理にかなった指標とするべくカスタマイズしてください。

繰り返しますが、設定根拠を明確にして、社内での合意を取り付けることが重要です。

新規顧客獲得数の算出:コンバージョン率の活用

LTVは顧客を獲得した後にどういった価値をもたらしてくれるかでしたが、そもそも新規顧客を獲得しないことには始まりません。

ということで、新規顧客獲得数を計算する方法を説明します。
ここで、重要となるポイントはコンバージョン率です。

コンバージョン率は、Webマーケティングでは馴染みのあるKPIですが、Web広告等で流入した顧客が売上につながる次のアクションに進む率とされています。

ここでは、Webマーケティングだけでなく、広い意味で顧客が購買意思決定のプロセスを1ステップ進むことをコンバージョンと考えます。

コンバージョン率は、何パーセントの顧客が次のステップへ移行したのか表します。

例えば、展示会への訪問者数から実際に商談などの次のステップに移った顧客数が以下の通りだったとします。

展示会の自社ブース訪問者数:1,000人
展示会訪問から具体的商談に至った数:100人
コンバージョン率(%):100÷1000×100=10%

さらに商談数を増やしたい場合の施策には2つの方向性があります。

1つは、展示会の自社ブース訪問者数を増やすことです。
訪問者数が2倍になると、コンバージョン率が変わらなくとも200人と商談成立することになります。たとえば、招待状の送付数量の増加やWeb広告での誘導数を増やすなどの施策でしょう。

もう1つは、コンバージョン率を改善することです。
展示会への訪問者数が変わらない場合もコンバージョン率が20%になれば、上記の例と同じく200人と商談成立することになります。方策としては、展示会のプロモーション資料の改良などがあるでしょう。

顧客の購買行動プロセスにおけるコンバージョン率を把握することは、マーケティング施策の優先順位を考える上でも有効です。

どこにボトルネック(プロセスの流れが停滞する箇所)があるのかを突き止め改善策を施すことで、マーケティング効率が向上します。

カスタマージャーニーを活用する

顧客とのタッチポイント毎のコンバージョン率を把握し、改善策を講じることで、結果として新規顧客の獲得につながります。

そのためには、購買行動のプロセスを図式化する必要があります。そんなとき役立つのが「カスタマージャーニーマップ」です。カスタマージャーニーマップは、顧客の購買行動のプロセスと企業とのタッチポイントを一連の流れとして可視化したものです。

カスタマージャーニーマップについては別記事で解説しています。

上記の記事の中で紹介しているカスタマージャーニーマップの事例を利用し、コンバージョン率を変化させることで獲得できる新規リピート顧客数がどう変わるかを説明します。

カスタマージャーニーマップ

このカスタマージャーニーにおいて、7つのフェーズとそのKPIが明示されています。
各フェーズのKPIからコンバージョン率を仮設定したものが以下の表です。

コンバージョン率

この例では、現在、180人がリピート顧客です。これを、LTVの例(LTV=36万円)に当てはめると、現在のリピート顧客全体のLTVは6,480万円ということになります。

マーケティング施策によって増加したリピート顧客数が活動の成果(リターン)となるのです。

以下は、オウンドメディアのコンテンツを改良(投資額1,500万円)することによって、アクセス数が5%伸びたケースです。

アクセス数が5%伸びたケース

コンテンツの改良によって、結果として、45人の新規リピート顧客が獲得できました。増加したLTVは、45人×36万円=約1,620万円となります。

ROI(%)=1,620万円÷1,500万円*100=108%

コンテンツ改良によるROIは、108%ということです。

リピート顧客化後のKPI

上記の例では新規リピート顧客の獲得を活動成果として設定しています。

ただし、顧客との関係はそれがゴールではありません。

リピート顧客である期間を維持し、そして、周りの人にも推奨してもらうような関係を築かなくてはなりません。既存顧客との関係維持は、営業との協力が必要不可欠です。既存顧客の満足度を図る指標には以下の2つがあります。

1. 既存顧客維持率
昨年の顧客がどの程度今年も自社の商品・サービスを購入したかを示す数字です。顧客満足度を図る上で重要な指標です。

計算式=今年のリピート顧客数÷昨年の顧客数

このKPIは競合状況によっても変わりますので一般的な目標値はありませんが、前年比から何ポイントアップなど営業部門と協力して数値設定すると良いでしょう。

2. NPS(ネット・プロモーター・スコア)
「あなたは自社の商品・サービスをあなたの友人や同僚に薦めたいと思いますか?」

顧客アンケートで採用する企業が増えていますので上のようなアンケートに回答された経験がある方も多いと思います。10点満点で10点「強くそう思う」~0点「まったくそう思わない」で回答を得ます。

通常、回答が10か9なら+1点、8か7なら0点、6点以下ならマイナス1点とします。

一般的な目標値としては、プラスを維持することとされますが、顧客の年齢層などで回答に偏りが生じることは考慮に入れておくべきです。

まとめ

ここまでご説明したように、マーケティング活動の評価指標としてのROIの目的は、経営陣はじめ社内にマーケティング活動の成果を正しく認識してもらうことと、諸活動の改善点を見つけることです。

もし実現できれば冒頭のような愚痴が営業マンから聞こえてくることはなくなるでしょう。

いきなり完璧なROIを算出するのは難しいため、スモールスタートで出来るところから一つずつ積み上げていくことが大切です。

ぜひ本記事を参考に自社のマーケティング施策について、ROIの算出モデルを策定してみてください。